キイロダカラ(1)
モルジブ・ファルコルフシ島の打上貝

真野 進
(2001.05.01.)

キイロダカラはMoney cowryとも言い、昔、貨幣として使われたことは良く知られている。しかし、モルジブがその主な供給地であったことは余り知られていない。この辺の事情は、山口による「サンゴ礁の貝類資源 【2】タカラガイ類(1991-1992)に詳しい。また、その中でも触れられているが、T.ヘイルダールが「モルジブの謎」で10-11世紀から17世紀まで、大量のキイロダカラが世界各地に供給されたと述べている。また興味深いことに、これらの大量のキイロダカラを供給するために養殖が行われていたとも書いている。今回、モルジブに行に当たり、この養殖技術の詳細を調べたいと考えたが全く手がかりも掴めなかった。もはや、歴史の中に消えてしまったのかも知れない。
滞在したファルコルフシ島の浜辺で拾ったキイロダカラを測定してみた。
方法
採集日(Coll. Date) 2001年4月4日ー4月11日
採集地(Location) モルジブ(Maldive)・ファルコルフシ(Farukolhufushi)、北緯4.2度
採集法(Materials) 打上貝を88個拾う。(Beached)
測定法・測定項目

結果及び考察

 測定結果
     

1.サイズ(L)
size
 
最大25.2mm、最小12.6mm、平均17.2mm、標準偏差2.57であった。この最大個体は他に比べ飛び抜けており全体の分布を乱しているが、これを除いても平均は17.1mmとなるに過ぎない。分布図を左に示す。
この値は、前述のサンゴ礁の貝類資源 【2】タカラガイ類(山口 1991-1992)の表8にあるMale, Maldives 1986の平均14.47mmに比べ大きく、Micronesia 諸島の物と同じ位である。
2.伸長度(L/W) 
elongate
最大1.54、最小1.20、平均1.33、標準偏差0.069であった。この値は日本産の各種タカラガイの値と比べ、著しく小さい値で、円形に近くなっている。
3.扁平度(H/W)
depressed
最大0.79、最小0.57、平均0.66、標準偏差0.040であった。この値も日本産の各種タカラガイの値と比べ、著しく小さく、押し潰されたようになっている。
4.歯数
teeth
内唇歯9ー14、平均11.2、外唇歯9ー13、平均11.2個であった。
5.未成貝
junenile%
今回測定に用いた個体の中で若いと思われる物は2個体で、率にして2%にすぎなかった。
Fig.2に未成貝を示す。今回測定に使ったのは右端の1個体だけで、他は歯列が未発達であったので測定から外した。
Fig.2 pj
6.色・形の変異 Fig.3に色の変わった個体を示す。緑(85)、黄(69)、オレンジ(42)、白(56)など様々である。
Fig.4に形の違った個体を示す。所謂、「フシダカ」型(51)の様々な段階が見られた。

Fig.3

pc
Fig.4 pf
7.断面 Fig.5に、横断面と縦断面を示す。何れも成貝層が厚く形成されている。特にフシダカ型では、両側の層が厚く、背の高さと同じくらい盛り上がっている。また歯も不規則に盛り上がる。
Fig.5 pcross
psad
Fig.6 サンドポンプで汲み上げられて砂浜を這っていた個体。唯一、採集の生体。灰皿の中を、勢いよく這い回っていたが、サンゴの岩を入れてやると岩の窪みに入り動かなくなった。

あとがき
 前述の山口先生のレポートでは、インド・太平洋各地のキイロダカラの殻長に特徴的な傾向は見つからないが、沖縄列島各地では、北で大きく、南で小さい事が明かであるとされています。今回のモルジブのキイロダカラで驚かされたのは、成貝層の厚さでした。キイロダカラもハナマルユキと同様、成貝となってからも成貝層の肥厚が続き、このことが殻長の地理的変異を分かり難くしていると考えられます。この貝層の厚さの為、手で持った時に一定の重さを感ずる事が出来、これが貨幣としての流通の一助となったのでしょう。それにしても南の海の華やかさは感動でした。
 モルジブは野生生物採集/持ち出し禁止のネットワークを,インド,セーシェル,オーストラリアで形成し、1990年頃から厳しく制限していた様ですが、今回の訪問では少しゆるんできているような印象でした。自然保護と観光の難しい舵取りがモルジブ共和国にも求められているのでしょう。それにつけても、養殖技術が残っていればと思いました。