ハナマルユキ(6)
和歌山県・南部の貝

真野 進
(2001.07.01.)

今回、土生伸吾氏より南部町堺のハナマルユキ53個の提供を受けたので測定を行い他の海岸と比較を行った。

採集日 2000年4月-5月
採集地 和歌山県南部町堺
採集法 潮間帯にて採集。土生伸吾氏(群馬県勢多郡粕川村月田310ー3)より提供を受ける。
測定法・測定項目
サイズ ノギスにて最小単位0.1mmまで測定(少数第2位四捨五入)
歯数 目視による
殻長(size:L): 前端から後端までの長さ
殻幅(width:W):内唇側と外唇側の最大幅
幼殻幅(juvenile width:JW):横断面の幼殻幅
殻高(hight:H):腹面から背までの高さ
幼殻高(juvenile hight:JH):横断面の幼殻高
伸長度(elongate):殻長/殻幅 L/W
扁平度(depressed):殻高/殻幅 H/W
内唇歯数:末端襞(teminal ridge)も含めカウント
外唇歯数:末端襞(teminal ridge)も含めカウント

結果及び考察

代表的な10個体を示す。三浦、房総のハナマルユキに比較し色、模様は同じだが辺縁の張り出しは明らかに強く、測定はしていないが重量もある。


 測定結果

1.殻長(L)
 Size
 
最大32.6mm、最小21.7mm、平均28.3mm、標準偏差2.43で、潮岬、三浦半島、房総半島産に較べて小さかった。特に、地理的に近い潮岬の打上貝と2.6mmもの差があったことは興味深い。(総合表) 
2.伸長度(W/L) elongate 最大1.46、最小1.23、平均1.35、標準偏差0.052であった。最小値は他の産地と変わらないが、最大値、平均値が低かった。このことは、南部産で最も外部成貝層の沈着が進み、それに潮岬産が続き、房総、三浦産ではなかなか沈着しないと言えそうである。
3.扁平度(H/W)
depressed
最大0.72、最小0.61、平均0.66、標準偏差0.028であった。この値の産地間比較でも伸長度と同じ事が言える。
4.歯数 内唇歯16-12、平均14.0、外唇歯17-13、平均15.2であった。

5.幼殻高、幼殻幅の測定部位

6.横断面の幼殻高と幼殻幅

前報でも触れたが、入江はハナマルユキではヤクシマダカラやホシダカラと異なり、外部成貝層の幅が大きいため標本の殻長を比較するだけでは地理的変異が分からないとし、幼殻幅を測定し棲息域の年間平均水温との間に負の相関関係があることを示した。(ユリヤガイ 1997)
そこで今回、No.1-10の標本の横断面を作り幼殻のサイズを測定した。

個体No.

殻高
(H)
mm

殻幅
(W)
mm

幼殻高
(JH)
mm

幼殻幅
(JW)
mm

H/W

JH/JW

H-JH
mm

W-JW
mm
1 13.2 20.5 11.4 14.0 0.644 0.814 1.8 6.5
2 13.9 21.9 12.8 15.7 0.635 0.815 1.1 6.2
3 15.4 21.7 13.7 16.4 0.710 0.835 1.7 5.3
4 12.4 20.2 10.8 13.3 0.614 0.812 1.6 6.9
5 14.6 22.2 12.9 15.5 0.658 0.832 1.7 6.7
6 15.2 22.9 13.5 16.3 0.664 0.828 1.7 6.6
7 14.9 21.4 13.7 17.3 0.696 0.792 1.2 4.1
8 15.9 23.0 14.0 16.8 0.691 0.833 1.9 6.2
9 11.8 18.6 10.1 12.6 0.634 0.802 1.7 6.0
10 15.2 21.9 13.6 16.2 0.694 0.840 1.6 5.7

平均
14.25 21.43 12.65 15.41 0.664 0.820 1.60 6.02

結果は、上表の通り幼殻幅で15.4mmとなり、入江の測定による種子島と奄美の中間的サイズとなった。これで行くと、南部町の水温は23.7-8℃と推定されるが、幼殻の大きさはその成長期の水温に影響を受けるのであり、場所毎の条件はもっと複雑であろう。

7.縦断面の幼殻高と幼殻長

入江は、ハナマルユキの地理的変異を調べるのには幼殻幅の測定が有効であるとしたが、一般に測定記録が発表されているのは殻長であり、多くの研究者達のデータとの照合には殻長に関する検討が必要となる。
そこで、No.11-20の標本の縦断面を作り幼殻のサイズを測定した。

個体No.

殻高
(H)
mm

殻長
(L)
mm

幼殻高
(JH)
mm

幼殻長
(JL)
mm

H/L

JH/JL

H-JH
mm

L-JL
mm
11 14.6 27.7 13.0 22.8 0.526 0.570 1.6 4.9
12 11.7 23.2 10.0 17.3 0.504 0.578 1.7 5.9
13 13.4 27.1 12.3 21.8 0.494 0.564 1.1 5.3
14 15.1 27.6 13.5 23.2 0.547 0.582 1.6 4.4
15 12.6 24.7 11.2 18.6 0.510 0.602 1.4 6.1
16 16.0 30.9 14.6 25.0 0.518 0.584 1.4 5.9
17 12.7 24.7 11.0 20.0 0.514 0.550 1.7 4.7
18 15.2 29.2 13.4 25.1 0.521 0.534 1.8 4.1
19 13.9 28.0 12.1 22.6 0.496 0.535 1.8 5.4
20 13.2 25.7 11.3 21.4 0.514 0.528 1.9 4.3

平均
13.84 26.88 12.24 21.78 0.514 0.563 1.60 5.10

結果は、上表の通り殻長-幼殻長で5.1mmもの差があることが明かとなった。このような成貝層の発達は主として棲息域の水温と正の相関関係にあると推測されるが、各地のハナマルユキについて同様な測定を行い、これを裏付けることが必要となる。但し、幼殻長の測定は、切断面が少しずれると最長の位置からはずれることもありかなりの誤差があることも注意する必要がある。

あとがき
 水温と幼殻の大きさには密接な関係があることは確かでしようが、黒潮の勢力とか、蛇行の程度とか、そこから派生する温水域などが場所によって微妙に影響することにより複雑化しているようです。現に、今回の標本の中には、写真No.49の個体のように背の滑層が遊離したものが見られ、土生氏は、厳冬期にタイドプールにいたのが寒くて外套膜を全部出さないでいたら背中になんかが乗ってしまって,そのまま死なないで頑張ってもりかえすとあんなのができる、と想像されています。